自分の声で歌い、演じ、話す。声優・タレント・クリエイターにとって、声はいちばんの商売道具です。ところが「声って著作権で守られているよね?」と聞かれると、答えは少し意外なものになります。AIで他人の声をそっくり再現できる時代だからこそ、「声がどこまで・何で守られるのか」を整理しておきましょう。ニャンゴシ君と佐々木先生の掛け合いで、やさしく解説します。
そもそも、著作権ってなに?
ニャンゴシ君先生、そもそも著作権ってなんニャ? なんとなくでしか分かってないニャ。
弁護士 佐々木ひとことで言うと、「人が創作した“表現”——つまり作品を、無断で使われないように守る権利」です。小説や音楽、イラスト、写真、動画、プログラムなどが対象になります。
弁護士 佐々木法律では、著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定めています(著作権法2条1項1号)。ポイントは“創作的な表現(作品)”であること。そして、作った瞬間に自動で発生し、登録もいりません。
ニャンゴシ君じゃあ、頭の中のアイデアとか、事実そのものは?
弁護士 佐々木著作権が守るのは“表現された作品”です。アイデアや事実、ありふれたもの、そして——人の顔や声といった身体的な特徴は、作品ではないので対象外なんです。
だから、声そのものには著作権がない
声そのもの——その人の声の響きや声質——は、その人の身体的な特徴であって、“創作した作品”ではありません。だから、声それ自体に著作権はつきません。現時点では、政府の整理でも、声そのものの権利に特化した法律はない、とされています。
ニャンゴシ君ニャ!? じゃあ声は守られないニャ!?
弁護士 佐々木落ち着いてください。「声そのものに著作権はない」というだけで、別の制度で守る道はあります。それに、混同しやすい“隣のもの”は、きちんと分けて考える必要があります。混同しやすいのが「その声で“何を”表現したか」です。歌や演技そのもの(実演)には実演家の権利、セリフや歌詞といった“ことばの中身”には(作詞家・脚本家などの)著作権が乗ることがあります。著作権がつかないのは、あくまで“声そのものの響き”です。
ニャンゴシ君「声の響き」と「その声で表現したもの」は、別ってことニャね。
では、声は何で守るのか──制度の“重ね合わせ”
弁護士 佐々木声は「これ一本」で守る専用の権利はまだ認められていませんが、いくつかの制度を重ねて守ります。守りたい側として知っておきたいのは、主に次の4つです。
| 守る制度 | 何を守るか | 限界 |
|---|---|---|
| 実演家の権利(著作隣接権) | 録音された歌唱・演技そのもの | 守るのは「その録音」。声質そのものや、真似た“別の声”には及びにくい。 |
| パブリシティ権 | 声の“顧客吸引力”(商業的価値) | 知名度のある声向け。声だけで本人と分かる識別力が課題。明文の規定はない。 |
| 不正競争防止法 | 出所を誤認させるような無断利用など | 周知性・出所表示機能が必要で、適用は限定的。 |
| 契約 | 利用範囲・AI学習の可否などを当事者間で決める | 契約した相手にしか効かない。 |
なかでも実演家の権利は強力で、録音された歌唱・演技を無断でコピー・配信されない権利のほか、勝手に名誉を損なう形で加工されない権利(実演家人格権)も含みます。ただし、守るのはあくまで「録音された実演」で、声質そのものではない——この点が、次の話で効いてきます。
ニャンゴシ君いろんな制度の“合わせ技”で守るニャんだね。
AIボイスクローンが突く“穴”
ニャンゴシ君最近、好きな声優さんの声でAIに歌わせた、みたいなの見るニャ。あれって完全アウトニャよね?
弁護士 佐々木それが、必ずしも単純ではないんです。ここが今いちばんの問題で——。
AIの音声合成の多くは、元の録音をそのまま切り貼りするのではなく、声の特徴を学習して、新しい音声波形を作り出します。すると、合成された声は元の録音と物理的に同一ではないため、実演家の権利(著作隣接権)の侵害にはならない、と整理されることがあります。「ある実演を真似て別の実演をしても、実演家の権利は侵害しない」という考え方の延長です。

また、パブリシティ権は声に及び“得る”ものの、明文の法律がなく、声だけで本人と分かる識別力なども求められます。つまり、「既存の録音を使わずに、声だけを似せる」と、いちばん強い実演家の権利をすり抜け、ほかの制度も適用に不確実さが残る——ここが、AIが突く“穴”です。
ニャンゴシ君守る網はあるのに、すり抜けられちゃうことがあるニャんて……。
弁護士 佐々木だからこそ、今後の法整備の動きが重要になるんです。
いま、どう動いているか──国内外の動向
この“穴”をふさごうと、国内外で動きが加速しています。
- 国内(政府):経済産業省は「肖像と声のパブリシティ価値に係る現行の不正競争防止法における考え方の整理」(2025年)で、AIによる声の無断利用が事案によっては不正競争防止法違反になり得るとの見解を示しています。内閣府「AI時代の知的財産権検討会 中間とりまとめ」(2024年5月)も、声へのパブリシティ権による保護の可能性を整理しました。さらに法務省は2026年4月、生成AIによる肖像・声の無断利用について“どんな場合に民事上の責任を問えるか”を議論する有識者検討会を立ち上げ、「パブリシティ権・肖像権の保護対象に声が含まれる」ことを確認、2026年夏をめどに指針を取りまとめる模様です。
- 国内(業界):2024年11月、日本俳優連合など声優・俳優の3団体が、AIで声優の声を使う際は本人の許諾を得ること、AIの音声であると明記すること、吹替などに使わないことなどを求める声明を発表しました。
- 国内(司法):2025年11月、ある人気の男性声優が、自分の声を生成AIで無断模倣した動画を公開されたとして、TikTokの運営会社に削除を求めて提訴しました(2026年5月に判明)。生成AIによる声の無断利用をめぐる国内初の訴訟とみられ、不正競争防止法違反とパブリシティ権侵害を根拠に争われています。
- 海外:米テネシー州では、声をパブリシティ権の保護対象に加え、AIによる無断の音声複製を規制する「ELVIS Act」が成立しています(2024年施行。連邦レベルの同種の法案は審議中)。実際に、海外の著名アーティストの声に酷似したAI楽曲が無断で流通し、主要ストリーミングから削除される例も起きています。
ニャンゴシ君みんな「声を守ろう」と思って、一生懸命、動き始めてるニャね。
これからどうなる? 守りたい側の備え
現状をまとめると、声は「これ一本」で守る専用の権利こそないものの、“無防備”ではありません。そして流れは、はっきりと「守る方向」へ動いています。現に、生成AIによる声の無断利用をめぐる国内初の訴訟が起こり、その判断が今後の基準を左右しようとしています。政府も声を保護の対象に位置づけ、指針づくりを進めています。実演家の権利・パブリシティ権・不正競争防止法・契約という重ね合わせの“足りないところ”を、いままさに司法・行政・立法が埋めようとしている——声の権利は今後さらに認められ、守る手立ても増えていく過渡期だといえます。
実際、守る仕組みづくりも始まっています。たとえば、声優・俳優の音声をあらかじめ登録し、電子透かしや声紋で無断利用を見分けて、許諾を得た企業にだけ有償で提供するデータベースの取り組みも動き出しました。「契約・技術・ルール」の三方向から、声を守る環境が整いつつあります。
さらに、声を“みだりに使われない”という精神的な利益を正面から守る「人声権」という新しい考え方も学説で提唱されています。まだ確立した制度ではありませんが、こうした議論が進むほど、守る側の足場は広がっていきます。
そのうえで、守りたい側(声優・タレント・クリエイター)にできる備えは、大きく3つです。
- 証拠を確保しておく:無断利用を見つけたら、投稿URL・画面・音声などを保存し、「自分の声だ」と分かる材料(声の知名度や特徴、視聴者が本人と認識しているコメントなど)を集めておく。あとで権利を主張する土台になります。
- 早めに動く:プラットフォームへの削除請求や、投稿者を特定するための発信者情報の開示請求など、無断利用に対抗する手続きは早いほど有利です。証拠やアクセス記録は時間とともに消えてしまうことがあります。
- 動向をウォッチする:保護は強まる方向です。指針や立法の動きを押さえ、いざというときに使える主張(パブリシティ権・不正競争防止法など)を把握しておく。
ニャンゴシ君「声そのものに著作権はない」けど、みんなの思いもあるし、これから増えていく——ってことニャね。
弁護士 佐々木そのとおりです。現に国内初の訴訟が起き、国も「声」を守る方向で議論を進めています。声の権利は、これから形づくられていくはずです。だからこそ、無断利用を見つけたら証拠を残して早めに動く——その備えが、いまできる先回りです。
ニャンゴシ君声の権利が「俺のターン」になる日も近いニャンね!
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