「BtoCの契約書も全部電子で」はなぜ難しい?──特定商取引法と電子契約の落とし穴

BtoBの取引では、ハンコレスの電子契約が一気に広まりました。「うちもBtoC(消費者向け)の契約書を全部電子にすれば、効率化できるはず」——そう考える経営者は多いはずです。ところが、訪問販売・継続サービス・連鎖販売など、特定商取引法の対象になる消費者向け取引では、契約書類の“完全電子化”は思った以上に難しいのが実情です。ニャンゴシ君と佐々木先生の掛け合いで、その理由を見ていきます。

ニャンゴシ君

先生、BtoBはもう電子契約が当たり前ニャよね。うちのBtoCのお客さんの契約書も、全部電子にすれば効率化できるニャ?

弁護士 佐々木

会社同士の取引ならそうですが、消費者向けで特定商取引法の対象になる取引だと、そう簡単にはいきません。むしろ「全部電子に」は、原則できないと思っておいたほうがいいくらいです。

ニャンゴシ君

ニャ!? そんなに厳しいのニャ?

目次

まず、特商法の対象取引には「書面の交付義務」がある

特定商取引法は、消費者トラブルが起きやすい取引に、事業者の書面交付義務を課しています。訪問販売、電話勧誘販売、連鎖販売取引、特定継続的役務提供(エステ・学習塾・オンライン講座など)、業務提供誘引販売取引——こうした取引では、契約内容やクーリング・オフを消費者が手元で確認できるよう、概要書面・契約書面を交付しなければなりません。会社同士が合意のうえ電子契約で完結させるBtoBとは、そもそもの前提が違うわけです。

(※ネット通販=通信販売は、これらとは別に、広告表示や最終確認画面のルールがかかります。本記事は書面交付義務のある取引が対象です。)

ニャンゴシ君

なるほど、個人のお客さんを守るために特別なルールなのニャね。

電子交付は「できる」が、承諾書面が必要で「紙ゼロ」にはできない

ニャンゴシ君

でも、最近は電子でもできるように改正されたって聞いたニャ。

弁護士 佐々木

2023年6月(令和3年改正の施行)から、これらの書面も電磁的方法で交付できるようになりました。ただ、ここが肝心です。電子で交付するには、消費者の事前の承諾が前提で、しかも「承諾を取得した事実」を承諾書面(承諾控え)として交付しなければなりません。そして、これは原則として紙です。

適法に電子交付するには、承諾を得る段階で、消費者ごとに次のような手順も必要です。

ステップ内容
①方法の提示実際に使う方法(メール送信など)と、保存されるファイルの形式・閲覧に必要な環境を消費者に示す。
②承諾前の説明「承諾しなければ紙で交付されること」「データが記録された時点から8日でクーリング・オフ期間が進むこと」などを説明する。
③適合性の確認消費者が自分でファイルを開いて閲覧でき、必要な機器を日常的に使っているかを確認する。
④書面等で承諾を取得承諾は書面またはメール等の形で取得する。手続きに不備があると書面交付義務違反に。
⑤承諾書面(承諾控え)の交付承諾を取得した事実を承諾書面として交付する。原則は紙で交付を必要とする。

つまり、契約書を電子で送っても、“承諾を取った証拠の書面”が必ず付いてきます。だから、事業者が一律に「紙をやめて全部電子」にすることが難しいのです。消費者が承諾しなければ紙の交付義務は残りますし、「当社は電子に一本化しています」と説明して電子を選ばせることも許されません。

ニャンゴシ君

「紙はやめました。受け付けません」って言うのもアウトなのニャ……。

「電子で完結」できる例外は、実は“いちばん厳しい契約”の入り口

ニャンゴシ君

その承諾控えまで電子でいい場合もあるって聞いたニャ。それに乗るスキームならスッキリ電子化できるニャ?

弁護士 佐々木

たしかに例外はあります。その代表例が「オンライン完結型の特定継続的役務提供」——申込みもサービス提供もオンラインで完結するタイプ(オンライン英会話・オンライン講座など)です。でも、ここに乗る取引ということは、自社が“特定継続的役務提供”だと確定させる、ということなんです。

特定継続的役務提供は、中途解約や返金をめぐって事業者に厳しいルールが課される、もっとも消費者保護の厚い類型です。その詳しい中身は、コチラの記事で解説しています。

「中途解約はお断り」は書いても無効?──継続サービス事業者が知っておきたい特定商取引法

「電子で完結できるように対応する」ことは、こうした厳しい規制と中途解約・返金リスクを引き受けることでもあります。

ニャンゴシ君

電子でラクをしようとしたら、いちばん重い規制が待ってるニャんて……!

電子化してもしなくても、「取引の実態」で決まる

弁護士 佐々木

勘違いしてはならないのは、電子化を進めるかどうかにかかわらず、取引の実態が特定商取引法の対象(とくに特定継続的役務)にあたれば、同じ規制に服します。

「中途解約はお断り」は書いても無効?──継続サービス事業者が知っておきたい特定商取引法でも触れたとおり、判断されるのは名称ではなく中身です。「うちは電子契約にしていないから」「スクールと呼んでいないから」は、理由になりません。紙でも電子でも、あてはまる取引なら規制からは逃げられないのです。

まとめ:電子化は「抜け道」ではない

BtoCの電子契約書づくりは、「ツールを導入すれば終わり」という話ではありません。特定商取引法の対象取引では、承諾書面が必要なため完全電子化はできず、突き詰めれば特定商取引法に行き着きます。電子化は、規制の抜け道にはならないのです。

本当に確認すべきは、「自社の取引が特定商取引法の対象か——とりわけ特定継続的役務にあたるか」。あてはまるなら、「中途解約はお断り」は書いても無効?──継続サービス事業者が知っておきたい特定商取引法で触れた中途解約・返金への備えが欠かせません。電子契約フローの設計や、自社の取引類型の確認は、早めに専門家へ相談しておくと安全です。

ニャンゴシ君

「電子にすればラク」じゃなくて、「そもそもどんな規制の取引なのか」が先ニャんだね。

弁護士 佐々木

そのとおりです。対応を間違えると、効率化のつもりが、いちばん重いリスクを抱えてしまいますからね。また、特定商取引法がこういった規制をするのは、消費者の安全がそれだけ重要だからっていうことでもあるんだ。

ニャンゴシ君

消費者法は、顧客じゃなくて健全なビジネスを守る法律でもあるニャ!規制を守って、しっかりとしたコンプライアンスを維持していきたいニャね!


当事務所では、BtoC取引の契約書面・電子交付フローの設計や、自社の取引が特定商取引法(とくに特定継続的役務提供)に該当するかの確認、その対応について、ご相談を承っております。「ペーパーレス化を進めたいが、適法か不安」「そもそも自社が規制対象か知りたい」という事業者の方は、お気軽にご相談ください。

弁護士法人アストレイ

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